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不思議な魅力のあるドーナツ屋

カテゴリ : 
グルメ
執筆 : 
ellersley 2011-10-6 17:05

意味深なタイトルにしてしまいましたが、ミスタードーナツのことです。私は特にドーナツが好きというわけではなく、ミスタードーナツが特別に美味しいとも感じませんが、でもなぜかときどき、無性に食べたくなります。

 

ミスタードーナツは、ダスキンという会社が運営しています。ご存知の通り、ダスキンは清掃会社です。モップやホウキをレンタルしていて、キッチンやエアコンの掃除をするサービスを提供しています。

 

1つの企業が複数の業種で事業を展開すること自体は別に珍しいことではありません。しかし普通は、本業と関係の深い業種で新規事業に乗り出すのが常識です。

 

たとえば新日鉄は、誰もが知る製鉄会社ですが、新日鉄ソリューションズという情報システムの構築・運営会社も持っています。製鉄と情報システムというのは一見無関係に思えますが、実は密接な関係があります。現在の製鉄プロセスは、高度なシステム制御を要するため、必然的に制御技術が蓄積されるのです。

 

清掃事業とドーナツ店。一見無関係に思えるこの両業態も、実はダスキンならでは水平展開です。自社開発のモップの威力がドーナツ店で力を発揮するのです。その威力を存分に発揮できる環境としては、やはり焼き肉屋やカラオケやよりも、床が粉だらけになるドーナツ店の方が適しているのでしょう。そこで採取したデータを基に、主力製品のモップがさらに改良されます。素晴らしい水平展開です。高炉を精密に制御する過程で培ったシステム制御技術を基に水平展開を行っている新日鉄ソリューションズのケースに何ら引けをとりません。

 

私の住む町には、残念なことにミスタードーナツがありません。ないのですが、ドーナツ100円セールの新聞織り込みチラシはなぜか頻繁に入ってきます。そのセールの恩恵に与かるには、自転車で20分ほどかかる隣町の店舗まで行かなくてはなりません。しかしこの世に、ドーナツを食べるためだけに往復40分も自転車を漕ぐ人はいないでしょう。かくして私は往々にして、チラシを見ながら、「食べたいなぁ」と思うだけで終わります。

 

2、3年前にダスキンがモスバーガーと提携したとき、私は「なるほど」と唸らずにはいられませんでした。モスバーガーは、その業態ゆえ、ランチタイムが終わると客足がパッタリと止まってしまいます。早朝と昼下がりにドーナツを売れば、出勤前のOLや学校帰りの高校生がやって来るので、店舗はアイドルタイムがなくなり、効率よく売り上げを伸ばすことができます。一方ミスタードーナツにとっても、ランチメニューはどうも中途半端で、ドーナツ屋なのに肉まんやタンタン麺を売っていて、誰の目にも迷走は明らかです。昼にハンバーガーを売れば、ランチタイムの客単価は倍増します。

 

私は近くのモスバーガーがドーナツを売り始めるのを心待ちにしていましたが、一向に売る気配がありません。その一方で、「ドーナツバーガー」とか「ポテド」といった、これまた中途半端な商品を出し、一瞬だけ話題になって早々と終息してしまいました。

 

2つのものを1つにするというアイデアは、一見便利で魅力的に映りますが、そのほとんどは短命に終わります。テレビとビデオを一体化した「テレビデオ」、携帯電話とPHSを一体化した「ドッチーモ」、寿司と焼き肉が食べられるバイキング形態のレストラン... 当事者としては「良いとこ取り」をしたつもりでも、消費者には中途半端と映ってしまうというのが世の常です。iPhoneを始めとするスマートフォンは、「パソコンと携帯電話」の融合体ですが、「スマート」とネーミングした上、直接画面に触れて操作するという新しいユーザーエクスペリエンスを提案したから成功したことを忘れてはなりません。持っているだけで、垢抜けていて洗練された聡明な人間になれるような錯覚を抱かずにいられないのです。もし「スマートフォン」が、「ケーコン」とか「パソフォン」とかいう名前だったなら、これほどのヒット商品にならなかったでしょう。さすがのミスタードーナツと言えども、このアイデアは少々浮薄でした。

 

話が逸れてしまいました。ミスタードーナツに戻りましょう。ミスタードーナツを運営するダスキン社の業績と株価をちょっと見てみたいと思います。2011年3月決算時のデータです。

 

総資産 純資産 資本剰余金 一株純資産  
(百万円) (百万円) (百万円) (円)  
185,086 131,190 - 2,009  
         
株主資本比率 短期借入金 長期借入金    
(%) (百万円) (百万円)    
70.9 0 0    
         
売上高 営業利益 経常利益 純利益 一株利益
(百万円) (百万円) (百万円) (百万円) (円)
177,320 10,937 12,613 5,248 79.39

 

 ダスキン社の業績推移

 

一言で表せば、「堅実」です。売り上げは減少傾向にありますが、原材料費の高騰や消費者の節約志向の中でも1770億円という巨額の売り上げを記録しており、毎年一定の営業利益率を維持しています。翻訳業界全体の市場規模が2000億円と言われていることからも、その大きさがうかがい知れます。さらに特筆すべきは、70%を超える株主資本比率と無借金という財務体質です。これらの数字から、「無理な投資はせず、自分たちにできる範囲でコツコツやる」という経営姿勢が伝わってきます。2011年10月6日現在の株価は1552円で、PERが16.02倍、PBRが0.69倍、ROEが3.555%、配当が40円(2.62%)です。値動きは非常に安定しており、「大きくは儲からないが、それほど損もしない」安定した銘柄と言えるでしょう。3.555%というROEはやや物足りないようにも感じますが、ドーナツのような薄利多売のビジネスを考慮すれば妥当な水準と思われます。

 

私にとって最も思い出深いミスタードーナツの店舗は、独身のときに住んでいた愛知県大府市にあるJR大府駅前店です。といっても、店そのものに深い思い入れがあるわけではありません。そんなに頻繁に立ち寄っていたわけでもないし、冒頭で述べた通り、ドーナツが特別美味しいというわけでもない。でもなぜか、当時の生活や記憶、あの素晴らしい町で経験した数々の出会いや出来事がこの店とリンクするのです。あの微妙なレトロ感を醸し出している若干チープな木目調のインテリアが、セピア色の思い出と重なるのでしょう。ミスタードーナツ側からすれば、もちろん計算済みです。本人が気づかないうちに潜在意識にしっかりと居すわるという高度なマーケティング戦略を採用しているのですね。

 

これまでの私の人生の中でメインステージになったことは一度もないのに、なぜか私の記憶にしっかりと根を下ろしているミスタードーナツ。特段に美味しいわけでもないのになぜか定期的に私の食欲をそそることと相まって、不思議な魅力を放っているのです。

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